「なぁん」
その声が、あまりに大きくて、男は自分の耳が引きつるような感じがした。ねこは、男を見上げてまた声を上げた。
「なぁーん、なぁん」
ねこは、動かない男に、人が来たことを教えているのかもしれなかった。なぜ、返事をしないのかと言っているのかもしれなかった。だが、男には、ここに泥棒がひそんでいることを、外の男に教えようとしているように聞こえた。
どうにかしてねこを鳴き止ませたかった男は、とっさにしゃがみこんで自分の胸の中にねこを抱きかかえた。
勝手口では、電気屋の若い男が、家の中に誰かいるのかとようすをうかがっている。
「こんにちはぁ、誰かいませんかぁ」
男は、ねこが鳴き出さないようにぎゅっと抱きしめた。ねこのぬくもりが、じんわりと伝わってくる。ねこは、しなやかな舌で男のほほをなめる。男は、そのくすぐったさにじっと耐えていた。
冷たい、コンクリートの壁にかこまれた狭い部屋で、男はうなだれていた。今は、帽子もサングラスも手袋もつけてはいない。
(つづく 次回は12月26日配信 今度は守るからね、ごめんなさい。)
投稿者: おおもり
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