これから、しばらくの間、多伎町在住の童話作家・山本成美さんの心温まる童話を連載します。
山本成美さんは、お子さんを出産されたのを機に童話を書き始め、数々の賞を受賞されています。
何気ないほっこりとした表現がなんとも言えない魅力の彼女の世界を味わってください。
ねこは いない (その1)
男が思ったとおり、家の裏の勝手口のドアは、かぎがかかっていなかった。
さっき、この家に住む奥さんらしき人が、買い物かごを手にこの勝手口から出かけて行くのを見た。今、この家にはだれもいない。
男はドアノブを引いて、からだをすばやく家の中にすべり込ませた。
男は、泥棒である。目深にかぶった野球帽、大きめの黒いサングラス、ぴったりとはめた黒い手袋が、泥棒に入るときの男のスタイルだ。真っ昼間に、留守の家にもぐりこんで金を盗む大胆さだが、まだ、一度も警察につかまったことはない。
男は、掃除のゆきとどいた家の中へ、土足のまま、ずかずかと上り込んだ。
「さあて、金はどこだ」
キッチンを通り抜け、リビングを横ぎり、寝室を探す。途中、目につく棚の引き出しをかたっぱしから開けては中を引っかきまわす。
ふと、男は背中に何かの気配を感じて、はっとふりむいた。心臓が、急に大きくドクドクと動いている。
(つづく)
投稿者: おおもり
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